パリ五輪が目前に迫る中、女子ボクシング界では今、大きな波紋が広がっています。特に注目を集めているのは、女子66キロ級のイマネ・ケリフ(アルジェリア)と、女子57キロ級のリン・ユーチン(台湾)の出場をめぐる「性別騒動」です。この問題に対し、東京五輪で女子フェザー級金メダリストに輝いた入江聖奈が、自身の見解を公式X(旧Twitter)上で発表し、多くの反響を呼びました。
パリ五輪の女子ボクシング競技には、昨年の世界選手権で性別適格性検査をクリアできず失格となったケリフとリンが再び参戦しています。これに対して、出場の是非をめぐる議論が巻き起こり、批判的な意見が相次ぎました。しかし、IOC(国際オリンピック委員会)のスポークスマン、マーク・アダムス氏は「彼女らはパスポート上で女性とされており、そのため出場資格を与えた」と明言しました。
入江聖奈にとって、リン・ユーチンはかつてトップの座を争ったライバルであり、彼女の存在は特別なものでした。7月31日のX投稿で入江は「どこからが女性でどこからが男性なのか、早急に明確な線引きをする必要があるのはもちろんなんだけど、リンさんの鬼のような練習量を知ってる身としては、少し悲しい気持ちになる」と心中を明かしました。
入江は、自身がリン・ユーチンの努力を知っているだけに、この騒動に複雑な思いを抱いているようです。彼女は、国際大会に出場する選手がドーピング検査を受ける際、身体的特徴も確認されるため、身体的には女性であると見なされることが多いと述べました。
「擁護しているわけではないです」と前置きしつつも、「XY染色体があったとしても、それが運動能力にどれほど影響するのかは専門家の意見が必要だ。『男が女をボコボコにしている』というような発言は、選手の尊厳を傷つけるので嫌です」と、本音を吐露しました。
騒動が続く中、ケリフとリンはそれぞれの試合に臨みました。8月1日、ケリフはイタリアのアンジェラ・カリニと対戦。試合開始からわずか46秒で、カリニは鼻を殴られた後、「もう戦いたくない」とコーチに相談し、棄権を選びました。ケリフの強力なパンチ力が、対戦相手に恐怖を与えた瞬間でした。
翌2日、リン・ユーチンも初戦に臨み、ウズベキスタンのシトラ・トゥルディベコワを5−0の判定で下し、ケリフと同様にベスト8進出を果たしました。この二人のパフォーマンスは、性別をめぐる議論の中でも実力を証明し続けていることを示しています。
この問題に対して、IOCは「すべての人は差別なくスポーツをする権利がある」との声明を発表しました。IOCは、ケリフとリンが女性のカテゴリーで長年競技してきたことを強調し、世界選手権での失格は「IBA(国際ボクシング協会)による突然の恣意的な決定であり、正当な手続きなしで行われた」と主張しました。
「彼女たちは犠牲者であり、現在受けている誹謗中傷に心を痛めている」とのメッセージも伝えられました。入江聖奈は、この騒動を見守りながらも、スポーツが本来持つべき公正さと選手の尊厳が守られることを強く願っています。