私たち夫婦が一緒にスーパーに出かけるのは、毎週水曜日の恒例行事です。義父が経営する保育園に勤める私たちは、仕事の合間に必要な食材をまとめて買い出しに行くのが日課になっています。その日も、いつものように駐車場に車を停め、スーパーでの買い物を楽しんでいました。
買い物を終え、駐車場に戻ると、驚いたことに私たちの車の隣にナナメに駐車された軽自動車がありました。後部座席には大量の牛乳パックを積み込む必要があったのですが、その車のせいでドアを開けるのも一苦労。旦那は慎重にドアを開け、牛乳をクーラーボックスに詰めていました。
その時でした。赤い帽子から靴まで、全身を赤で統一したおばさんが戻ってきて、「車体に傷がついてる!弁償しろ!」と怒鳴り声を上げたのです。私たちは驚きつつも冷静に対応し、「ドアを当てないように十分注意していましたし、その傷はドアが当たる位置ではないですよ」と説明しました。しかし、おばさんは聞く耳を持たず、逆上するばかり。次第にエスカレートする彼女の態度に、私は警察を呼ぶべきかと悩み始めていました。
すると、突然おばさんは旦那の顔に唾を吐きかけました。瞬間、旦那の顔色が変わり、周りが一瞬凍りついたように感じました。普段は温厚な旦那が、ティッシュで唾を拭き取りながら言いました。
「分かりました。どうしてもこの傷がうちの車がつけたものだと仰るのですね。…じゃあ実験してみましょう。」
そう言うと、旦那は後部ドアを勢いよく開き、おばさんの車の側面に思いっきりぶつけました。「見て下さい。これが今のでついた傷ですが、お宅が仰るのとまったく位置が違いますね?つまり、その傷は私達がつけたものではない。
お分かりですね?」旦那の言葉に、おばさんは完全にポカーンとした顔をしていました。
旦那はそのまま、保育園の買い出し費用が入ったバッグから千円札数枚を取り出し、おばさんに向かって投げつけました。「今ついた傷はこれで充分でしょう」。その後、私に向かって「さ、行こ行こ」と軽く声をかけ、車に乗り込みました。私はやや放心状態のまま助手席に乗り込み、その場を後にしました。
家に戻る途中、旦那が「しまった、保育園の財布から投げちゃったよ」と苦笑しながらつぶやいていました。彼は自分の財布から五千円を補填していましたが、その顔には少しの後悔と、どこかスッキリとした表情が見え隠れしていました。
普段は穏やかで優しい旦那が、こんな大胆な行動に出るとは思ってもみませんでした。その日の夕食は、旦那の大好物である牛スジカレーにしました。彼の意外な一面を垣間見たことで、私はまた一つ旦那の魅力を再確認することができました。