雨が降りしきる中、濡れたアスファルトが街の照明を反射していた。その日の空気はどこか緊張感に包まれていたが、まさかこの瞬間が自分の人生に刻まれるものになるとは、誰も予想できなかっただろう。

主人公は若かりし頃に手に入れた愛車、ニッサンチェリー1300ccに乗っていた。チェリーは小さく、非力なエンジンだったが、どこか愛着の湧く存在であった。その日もいつものように、友人たちと共に山や海へと出かけるため、街中を駆け抜けていた。しかし、そのチェリーには見過ごせない弱点があった。

交差点に差し掛かった瞬間、突如としてエンジンが力を失った。

窓から雨が流れ落ち、ワイパーは必死に動いていたが、クーラーをつけた瞬間、チェリーのエネルギーが尽きたかのようにバッテリーが切れてしまった。車は交差点のど真ん中で完全に動かなくなり、周囲の車が一斉に停止。運命のいたずらはここから始まった。

「どうする？」と焦る心を抑えながら、主人公は車内で状況を冷静に見つめた。エンジンが再び動く気配はなく、雨音だけが強調される中、次第に通行人や他のドライバーたちの視線が車に集中していく。車内の空気は重く、周囲の車のエンジン音が交差点全体にこだました。

しかし、その時、運命の歯車が回り始めた。突然、後ろから一台のトラックが近づいてきたのだ。中年の運転手が窓を下げ、「何か困ってる？」と声をかけてきた。彼の一言で、主人公は一瞬で緊張が解けた。

「バッテリーが…」と答えると、トラック運転手は即座に車を安全な場所まで押すことを提案した。

道端に車を移動させると、運転手は工具を取り出し、バッテリーを調べ始めた。

「こんな日に、クーラーとワイパーを一緒に使ったらそりゃバッテリーが上がるさ」と、親切にアドバイスをしながら作業を進めてくれた。彼の手際の良さに、周囲の緊張も次第に和らぎ、通行人たちも次々に「大丈夫？」と声をかけるようになった。

雨は依然として降り続いていたが、交差点での不運な出来事は、何かしら温かな出来事へと変わっていた。トラック運転手の助けで、無事にバッテリーは復活し、再びエンジンが始動した。

「ありがとう、本当に助かった！」とお礼を言うと、運転手は微笑み、「気をつけて運転しなよ」と軽く手を振りながら去っていった。

この一件を通じて、主人公は改めて車や人々のつながりを感じた。ニッサンチェリーは決して強力な車ではなかったが、その時、彼にとってはかけがえのない存在だった。

限界に挑む車と、それを取り巻く人々の優しさ。非力なチェリーが、街中で運命を変える瞬間を作り出したのだ。